旅の衣・食・住
走行距離は700kmを越え、少しずつチャリ旅のリズムが掴めてきたような今日この頃。50~80kmごとにある小さな村を目がけ、南アフリカ共和国とナミビアを結ぶN7という国道を、ここ一週間ひたすら北上している。
今いる北ケープ州は、住んでいた西ケープ州とも、ホリデーで行った東ケープ州とも様子がまったく違う。白人は少なく、黒人もめったに見かけず、ほとんどの人が混色のカラードと呼ばれる人たちだ。同じ国内でも、地域によって文化が異なるのは、この国の歴史を感じさせる。
だけど、人の気配を感じるのは村の中のみで、村と村の間の50km~80km区間は、家も何もなく、ひとっこ一人としていない。(いるのはモングースとダッシーという可愛い小動物くらい) ただただ、見渡す限り大地が続く。
そんな中を日々、目立つ大きな荷物たちをぶら下げて自転車で走っていると、通り過ぎる車や立ち寄った村の人たちが頻繁に声を掛けてくる。荷物の中身は?何を毎日食べているの?どこどこ村で、君たちを見かけたよ!こういった人々の何気ない問いかけや交流に、いつも本当に励まされている。
今回は、そのいくつかの質問に答えるように、私たちの旅の装備と日々の生活を紹介したいと思う。
まず最初は、「衣」。
必要最低限のインナー、アウター、あったかいダウンジャケットを日々着まわし。ありがたいことに、アウトドアブランド数社から、ウォータープルーフのバック、衣類のほとんどを提供していただいた。なので今のところ、見た目はかなりフレッシュ(なはず)。
だけど同じ服を手洗いして毎日繰り返し着ているので、近いうちにいい古着感が出てくることでしょう。オシャレはいつだってしたいけど、今は我慢の時期だと自分に言い聞かせている。
次に「食」。
自転車を漕ぐ日は、夜明け前の朝6時頃に起床して、眠気と闘いながらポリッジ(麦を水炊きしたおかゆのような、イギリス伝統の朝ごはん)+バナナ+ハチミツと、コーヒーをガソリンストーブで作るのが日課。コーヒーは、なんとエスプレッソメーカーを常備している。もちろん重いし荷物になるのだが、今のところ1日の始まりの美味しいコーヒーは譲れない。
お昼ごはんは、道脇ですぐに食べられるように、前日に作り置きしている。最近のお気に入りは、サラダパスタか、エリオットの手作りパンに、アボガド、フェタチーズ、ひよこ豆、トマトなどを加えたもの。いつもこのお昼ごはんを楽しみに、午前中は自転車を漕いでいる。
今年に入ってから、なぜかエリオットは小麦粉クッキングにハマっていて、チャパティやパンケーキ、クッキー、パンなど、状況に合わせて小麦粉クッキングを駆使している。小麦粉は安く、消費期限も気にせず様々な使い方が出来るので、今回の旅には必須アイテムだ。
晩ごはんは、簡単に作りたいときにはパスタ(ツナ缶と野菜が多い)、時間のあるときにはレンズ豆のカレーやチャーハン。あらかじめ調合しておいたカレースパイスミックスやハーブミックス、醤油など、必要最低限の調味料を常備しているので、和洋中意外と幅広く楽しめている。
はじめに書いたように、食品を売っているお店が長距離間ないので、スーパーに辿り着いたときは2、3日分買い置きしている。買い物担当はわたし。エリオットは自転車の見張り役。二人だと、こうゆうときに本当に助かる。
自転車ロックは持っているけど、荷物をロックすることは出来ないので、エリオットはいつもスーパーの入り口で待機。だけど、エリオットがその待ち時間を退屈したことは今まで一度もないはず。というのも、私を待っている間、いつも誰かと会話しているからだ。
エリオットに話しかける人は、今のところ2パターン分けられる。1パターン目は、尋常じゃない荷物を積んだ自転車と彼に興味を持って、「どこから来たんだ?」「これからどこへ行くんだ?」などと話しかけてくる人。
もう1パターンは、前者のように見せかけて、物やお金を乞う人。こういった人々は、小さな村になればなるほど意外と多かった。スーパーの向かいには、たいがいアルコールを売るお店があって、彼らはその前にたむろしている。小さい村での、特に高齢の人のお酒の問題が深刻なのは、見て明らかだった。
野外食+サイクリングというと、レトルト食やサプリメントを摂っているのかとよく聞かれるけど、実際そういったものは一切摂っておらず、その土地土地で買える材料で毎日せっせと自炊している。北ケープ州はとても乾燥した地域で、(雨季前の今の時期は特に)、地図に載っている川はすべて干からびているほどの乾燥具合だから驚いた。
そのため、フレッシュな食べ物を小さな村で見つけることが難しく、珍しく野菜くだものを見つけるととても嬉しくなる。色とりどりの野菜やくだものを路上マーケットで買える国へ行くのが、今から楽しみだ!
そして最後に「住」。
旅にでて、もうすぐ1ヶ月。友人の両親宅に泊まらせてもらった4日間を除き、すべてテントで寝起きしている日々。南アフリカには、どんな小さな村でも、キャンプサイトやキャラバンパークが点在していて、しかもちゃんとしたシャワー(あったかいお湯がでる!)とトイレが設備されているので、とても快適だ。防犯面の安心もあるけれど、キャンプサイトでの人との出会いも楽しみのひとつ。
マンゴー農園を経営しながらキャンプサイトをしているドイツ人夫婦や、私が生まれる前からゲストハウス兼キャンプサイトを山奥でほっこり経営している老夫婦。かつてはサファリガイドをしていたというアクティブな南アフリカ人男性など、オーナーのキャラクターは様々で、彼らの話はとても面白い。
もちろん、キャンプサイトに泊まっている人との出会いもある。先日はキャラバンパークで、ついに一人目の自転車旅人と出会った。
彼は、私たちのような自転車旅人と大きく違った。テントもクッカーも、自転車部品のスペアもほとんど持たず、今時の高級な軽量マウンテンバイクに乗っていた。もうすぐ50歳になるブラジル人のパオロは、このスタイルで3年間旅をしているという。
彼とは向かう方角も同じのため、これからも各地で出くわすことになるだろう。
野外での生活は、自然と時間の移り変わりを肌身を感じることができる。と同時に、室内での生活の快適さにもたくさん気が付く。
椅子やテーブルがあるって、なんてラグジュアリーなんだろう。とか、布団やベッドって、なんて心地いいんだろう、などなど。
こんな旅の「衣食住」をこの先続けることで、見えてくるものはなんだろう?そしてこの先、どう変わっていくのだろう?
旅は、まだ始まったばかりだ。
2015 / 4 / 28