Cederbergにお別れを

 

ルイボスが世界で唯一自生し、栽培される山、Cedarberg。山脈の歴史がとてつもなく古いからか、人が極端にいない手つかずの自然だからか、なんだか懐郷的な気持ちになる、不思議な山だ。

アフリカ最南端であるケープタウンをスタート地点にして、アフリカを北上した自転車旅人は、過去に数多くいる。だけど、今回私たちが選んだ南アフリカ縦断ルートを、あえて選択した人はかなり少ないのではないかと思う。もしいるとしたら、私たちと同じ理由か、あるいは体力をどうしようもなく持て余してる人に違いないだろう。

なぜなら、このCederberg縦断ルートは、いくつもの峠を越えなければならず、山脈をつなぐ主要道路のほとんど(約120km中、4kmを除く)が、未舗装のがたがた道だからだ。はじめての長距離オフロード走行にしては、なかなか思い切った選択なのだろうが、なんせ経験値がないため、それがどれほど辛いものなのかも分からない。時間に急ぐ必要もないので、とにかく毎日ゆっくり進めばいい。坂道は自転車から降りて押せばいい。そんな感じで、私たちは軽めに腹をくくっていた。

Cederbergは、南アフリカに住んでいた間、数え切れないほど訪れた私たちの大好きな場所だ。金曜日に仕事が終わると同時に車を走らせ、3時間半かけてキャンプサイトを目指し、土日はハイキングや川泳ぎを存分に満喫して、日曜の夜帰宅するというループを何度繰り返したことか。

いくら道は険しくとも、Cederbergにお別れを告げずに南アフリカを去るなんて、私たちには考えられなかった。

まだまだこれから。

ひと晩お世話になった農家の夫婦に見送られ、いざ愛しのCederbergへ向かう。数キロ走ると、その日の目的地であるキャンプサイトまで、あと48kmの看板を発見。距離的にはそんなに遠くはない。

慣れない未舗装道路の走行は、常に気が抜けず、ちょっと気を逸らすと、バランスを崩して転びそうになる。そして私たちのマウンテンバイクにはサスペンションが付けていないので、振動がもろに全身に響く。それに加えて、影ひとつない道に太陽が照りつけ、暑さでへばりそうになる。

それでも何とか35kmを4時間かけて走り、休憩がてら立ち寄った農家さんの小さな売店で、自家製ジャムやオリーブオイルをゲットして気分転換+体力を回復しながら、あと10kmと少しだし、案外余裕かもと思ったのも束の間だった。売店をでて、小さな丘をいくつか越えると、その先に目を疑う光景が広がっていた。

冗談だと言って欲しかった景色

「Holly shit….」普段あまり口にしないスラングが思わず出てしまうほど、ぽかんとしてしまった。

果てしなく道は山の峠まで続いている。いや待てよ。今までの経験からすると、登り坂は遠くから見るよりも、実際登り始めた方が案外しんどくなかったりする。あの目の前に見える登り坂も、その手の坂かも?そう自分を騙し騙し、魔の峠へと近づいていった。

が、現実はそう甘くはなかった。今までの登り坂とは比べものにならないほど勾配がきつく、道は凸凹だった。ペダルはどんどん重量感を増し、一番低いギアでも前へ漕げなくなり、ついに自転車を降りた。そうとなれば、もう押しながらゆっくり歩こう。と自転車を押すが、重すぎてびくともしない。ほんの少し前へ進んでも、砂と石で前輪が横へスライドするだけだった。常にブレーキを握っておかないと自転車が後退してしまうため、両手にも腕にもかなり力が入る。額から汗がだらだら流れてくるが、もちろん拭う余裕もない。

必死のぱっちとはこのこと

坂道を漕げなかったら、押せばいいと簡単に思っていたけど、押すほうが断然しんどい!と学んだ瞬間だった。少し前方にいるエリオットを見てみると、ほんのちょっとずつ前に進んでものの、私と同様にかなり苦戦している様子だった。

長距離走ったときや、登山のときとはまた違う種類のツラさ。体力の限界というよりも、筋力の限界。どう頑張っても私の筋肉が追いついていなかったので、ここからエリオットと共同作業をすることにした。一台の自転車を二人で一緒に100mほど押し、また戻ってもう一台の自転車を二人で押す。という作戦を、ぜーぜー言いながら何往復も繰り返した。なんでこの道を選んだんだろう?とか、何してるんだろ私?といったことは頭に浮かばず、ただとにかくこのしんどい時間を終えたい一心だった。

30分に一台ほど通る四駆車の人が、水を差し出してくれたり、声をかけてくれたのは励みになった。ある男性は「You have chosen the worst road on the planet ! hahaha (地球上で一番最悪な道を選んだな!ははは!)」とジョークをかまして通り過ぎていった。残念ながら、その時はジョークを返す元気も残っていなかったのだが。

夜は満天の星空

通常の道だと、1時間につき10~20kmは漕げるのだが、この登り坂のたった6kmには、なんと2時間半もかかった。

あとから地図を見てみると、この6km区間には500mの高低差があった。そりゃあしんどいはずだ!今後の旅でも、こんな難関はいくつもあるのだろう。そう思うとちょっと気が萎えるけど、その頃にはいい感じの筋肉が出来上がってるいるはずだと信じている。

週末にかけて会いに来てくれた友人たち

たくさんの思い出と最高の経験をさせてくれた、Cederberg。

またいつか、生きている間に必ず訪れたい場所のひとつだ。

 

2015 / 4 / 16